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1949年



 第七駆逐艦群所属JKN級駆逐艦F61ジャベリン。ロイヤル海軍駆逐艦で初めて縦肋骨方式を採用したこの駆逐艦シリーズの一隻は、応急修理ダメコンを語るにあたって外せない存在である。

 1940年11月28日、当時ロイヤル第五駆逐艦群に所属していたジャベリンは鉄血の駆逐艦と交戦。この際に魚雷2発を魚雷で相殺しようとして、全身に衝撃を受ける。特に損害が大きかったのが右部で、このときに腕部と足部を欠損。回収された躯体は乾燥重量が半分以下になっていたというから、甚大なダメージであるといえる。不幸中の幸いで、中枢機能とメンタルキューブは無事だったため、軍事施設で補修作業ののち、ほぼ一年後の1942年に復役――と歴史書には記されている。

 その後、地中海方面にて活躍したジャベリンは1943年に改修を受ける。この後、タングステン作戦やノルマンディー上陸作戦といった過酷な作戦に参加しながらも、世界を巻き込む第二次の世界大戦を生き延びた。

「おい」

 数少ない生き残りであるジャベリンだが、終戦後は役目ご免となり、姉妹艦とともに爆発実験に用いられ、航行能力を失う。
 1949年6月、売却。その後解体されたと歴史書には記されている。

「おい、おまえ」

 とはいえ、歴史書は記録でしかない。歴史には都合が悪いことは書かれぬものだ。それは身をもって知っている。

「おい、ヨークタウン!」
「ヨークタウンって呼ばないでくださいよ、指揮官」

 1949年――終戦から4年。東亜細亜アジア某所。人の行き交いの多い繁華街の食事処のオープンテラスでも自身は明らかに目立っていると、そのことを自覚しながら、銀髪の女――マチルダは己の名前を呼んだ男を振り返って応じた。
「知らん。本名だろうが」
「もうヨークタウンじゃありません」
「だったらおれだって、指揮官じゃないんだから、そう呼ぶな」
「ではなんと呼べと?」
「名前で呼びゃあいいだろうが」
「そんな……急に名前呼びなんて」とマチルダは頬に手を当てた。「えっちですね」
「意味がわからん。貴様だって、自分のことは名前で呼べと言っているのだろう。それなのに、馬鹿か、貴様は。阿呆か」

 この男は照れ隠しにすぐに口調が悪くなる。あまり良くない癖で、しかしこれを許容できるのは自分くらいのものだろう、とマチルダは思った。
「おい、馬鹿男、姉さまに失礼な口をきくな」
 帽子を被った小柄な少女――こちらはマチルダよりももっと澄んだ銀髪だった――が、男の袖を引いて注意を促す。
「うるせえ、ハム女。貴様も油断すると、すぐ自分のこと、ハムマンって言っているだろうが」
「は、ハム女ぁ!? 誰がハム女だ!」
「てめえだよ、ハム」
「おまえ……このハゲ!」
「おれのどこがハゲに見えるんだ、ハムは目ぇ見えてねぇのか」
「ぐ、ぐ……この………!」
 ふたりのやりとりを微笑ましく聞きながら、マチルダは空を眺めた。

 終戦から4年。かつての名を捨てたマチルダはもはや戦場に戻ることはない。ミッドウェー海戦でハムマンとともに海に沈み、ただ没していたのにこの男のせいで生き残ったマチルダは、人間として生きる決意をし、名を改めた。もはや〈放浪するマチルダワルチング・マチルダ〉ではなく、ただのマチルダだ

 あの子もそれは同じだろう――小さな身体で投げ槍を振り回して戦い、半身を失う大怪我を負った少女のことを思い出す。あの子ははじめ、望まずに戦場に立ち、次には望んで戦場へと向かった。戦場で彼女の指揮官と再会し、戦いを続け、そして生き延びた。

 戦争が終結した今、もはや戦場には戻らない。ではどこへ行くのか。
「あなたのことは好きですから」
 あの可愛らしい物言いを思い出す。あの子は人間になれただろうか。人間のことを知れただろうか――それはきっと、難しいことだろう。矮型が矮型のことをわからないように、人間自身だって人間のことはわからないはずだ。

 それでもきっと、少しだけ、知りたい人間のことは知れただろう。そういうものだ。わかることは少しだけ。それでも、嬉しく、楽しい。

 オープンテラスの近くの樹から、目立ちすぎるので近づき過ぎぬようにと言い含められた白頭鷲が寂しげにマチルダを見ていた。そろそろ行ってやらなくては、悲しくて泣いてしまうだろう。ひとりは寂しいものだ。マチルダは、ジャベリンが彼女の指揮官と楽しく暮らしていることを願いつつ、己の同行者に出発を促した。
(終)

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