展覧会/『CARTE』/Ep1-1 四番目の火種

■神聖帝国シェイク■

第三次戦争から10年。
大陸を濡らした血がまだ乾く前に、第四次戦争の火種は現れました。
その小さな小さな火種の名は、イクウェル
シェイクの次期聖女となった少女です。


今回も、イエバの託宣は突然降りてきました。
聖所の祭壇に登った現聖女の口から、次期聖女のイクウェルという名が流れ出たのと同時に、次期聖女に向かって二つの勢力が動き始めました。
ひとりはエロン・ホワイト。ひとりはヴァイオレット
第四次大陸戦争の主役となるふたりの英雄は、次期聖女を挟んで、初めての顔を合わせました。

このときエロンは、カイデロンが次期聖女を狙っているという事実を知らずにいました。
拉致に対する対策をしないまま派遣されたエロンは、目の前でヴァイオレットと彼女の配下である沈黙の鉤爪隊に、次期聖女を奪われてしまいます。
エロンは慌ててヴァイオレットを追ったものの、カイデロンの国境越えてまで追跡することはできず、結局次期聖女の代わりに絶望だけを抱いたままセノトに帰還しました。


謹慎処分を受け、神聖裁判を待っていたエロンに手を差したのは、アイリン・ベルでした。
彼女は次期聖女の拉致という、前代未聞の事件の前で右往左往しているイエバの口に戒厳令を布くと、直ちにカイデロンを討ち、次期聖女を取り戻すために出兵を決断しました。


このイエバの大天使にとって、エロンという騎士は必要不可欠な存在でした。
彼女はのちに魔王ベリアルと戦うときに、傍らで命を懸けて戦ってくれる存在を得るために、重罪人であるエロンを許し、聖騎士の支持を得たのです。


しかし、シェイクの軍勢だけでは、カイデロンと戦うのには戦力不足でした。
この事実をよく知っていたアイリンは、アルケンと軍事同盟を結ぶことを決断しました。
交渉台で何が行き来したのか、それは誰も与り知らぬことですが、アルケンのピエトロ・フリゴは絶対に損な取引をするような男はありません。
彼はこの戦争に、それだけの価値を見いだしていたのでしょう。


アイリンが戦争に乗り出す一方で、イエバの口は戦争に敗北した場合に備えた次善策を立てることにしました。
次期聖女が拉致されたという事実を国民に知らせる前に、偽の次期聖女を立てることにしたのです。
この危険な計画を成功させるためには、誰ひとりとしてこの偽次期聖女に疑いを向けさせるわけにはいきません。本当に次期聖女が死ぬか、永遠に帰ってこられなくならなければなりません。

イエバの口は適任者を探し、クロエ・ヒートヤードという名のイエバの細い手に目を付けました。


彼女の天性の神聖力は、聖女といっても誰も疑わぬほどであり、何よりも彼女自らが今までの人生に決別し、新しい人生を歩ことを望んでいました。
クロエが同意すると、すぐにイエバの口は彼女の偽りの死を計画したのち、外見をイクウェルと似させるように着手するのでした。

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