アメリカか死か/06/01 Galaxy News Radio-1

Galaxy News Radio

「じゃあ、ここにある二十束をぜんぶ買ったらいくらにしてくれる?」
「ぜんぶは売りません」
「なぜだ? 売るためにここに持ってきたのではないのか?」
「ちがいます。私は今日一日を暮らしにここへ来ているのです。このマーケットという場所が好きなのです。この雑踏、あの赤の肩掛がいいじゃないですか。馴染みが通りがかって"ブオノスディアス"(おはよう)と声をかけ、たばこに火をつけ、赤ん坊や作物の出来ぐあいの話をする。友達にも会える。それが楽しいんですな。それが私の生活なんです。それが楽しくて、ここに一日中座って、たまねぎを売っているのです。
一人の人にぜんぶ売ってしまったら、それで私の一日は終わりとなります。つまり楽しい生活を失うことになる――それは困るのです」
(レッドマンの童話――「たまねぎ売りのおじいさん」 『レッドマンのこころ』より)

Lynn
Lv. 5
S/P/E/C/I/A/L=8/3/10/5/4/8/2
Tag: Melee Weapon, Science, Unarmed
Skill:
[S] M.Weapon=35
[P] E.Weapon=10, Explosives=25, Lockpick=25
[E] B.Guns=31 ,Unarmed=55
[C] Barter=16, Speech=16
[I] Medicine=20, Repair=21, Science=25
[A] S.Guns=25, Sneak=25
Perk:
[S] Iron Fist
[Others] Lawbringer, Charge!, Lady Killer, Tackle
Equipment: Wattz 1000 Laser Pistol, Wattz 2000 Laser RifleMerc Charmer Outfit
Rad: 87


 Galaxy News RadioはCapital Wastelandを守る最後の砦だ。
 パーソナリティのThree Dogはかつて自身でそれを揶揄して、自分のラジオ放送を『聖戦』と呼んだ。あらゆる害悪に対して諦めないための最後の剣。

 Galaxy News Radioは、しかしただのラジオだ。その放送内容は正義とは程遠い。戦争前の音楽を流し、Three Dogがコメントを入れるという、ただの音楽番組。
 Galaxy News Radioの放送は決して正義を標榜しているわけでも、何かしらの教義を抱えているわけでもない。

 だからこその正義がそこにある。

 SarahはCapital Wastelandの人々を守ろうとする父を通して、正義を標榜しない正義を知った。多くの子供たちと同様に、親に隠れて深夜のラジオ放送を聞いた。大人になった今でもそうだ。馬鹿馬鹿しい放送内容は、任務に疲れた彼女の心を癒してくれる。

 Capital Wastelandに蔓延る生命体、Super Mutant。銃弾さえも受け止める強靭な生命力を以って人間の殺し、捕食するその生命体を殲滅するのが今のSarahたちの任務だ。人類の敵であるSuper Mutantを殺すというのは確かに人類のためになることであるが、現場で直接手を下している身としては、その実感がまったく持てない。Super Mutantも元は人間であったということをSarahは知っている。同じ赤い血の流れる生き物を殺し、清々しい気持ちではいられない。
 だが同じSuper Mutant殲滅任務であっても、Galaxy News Radioの警備任務についているときは嬉しい。自分も『聖戦』の一手を担っているような気がして、人々を守っているという実感があるのだ。悪から人類を守る最後の盾であるという実感が。


 今回の任務は突如Galaxy News Radio付近に集合し始めたSuper Mutantの殲滅だった。いつもどおりの任務で、しかし今日は一人隊員が死んだ。SarahはBrotherfoot Steel東海岸部署においてもっとも高い任務成功率を誇る隊であるLyons隊の隊長だ。隊員が死んだのは、隊長である自分の責任だ。心は、重い。死体から剥ぎ取ったドッグタグは軽かった。
 自分の隊の隊員が死ぬというのは初めてのことで、Sarahは非常なショックを受けた。だからその反動でか、ラジオ局一帯のSuper Mutantを殲滅し終えたとき、Sarahは油断していた。


 道中で出会い、Galaxy News Radioに行きたいというので保護をした旅人に、もう安全なのでラジオ局に入っても良いと放しかけようとした。
そのとき、地面が揺れた。


 最初は地震かと思った。しかしここは東海岸だ。西海岸ではなく、地震などそうそうない。しゃがんで揺れに備え、他の隊員へと警戒指示を出そうとしたそのとき、Sarahは揺れの原因であろう存在に気付いて放心しかけた。

 巨人。


 巨大なSuper Mutantの姿をSarahは積み重なったバスの向こうに見た。手には巨大な棍棒を持ち、それを振り被っていた。

 Sarahは咄嗟に旅人のほうへと跳んだ。彼女を抱えて塹壕の影に隠れる。
 爆発音と衝撃。
 SarahのPower Armorに取り付けられたガイガーカウンターが放射線増加を示す警告音を発した。バスの核エンジンが爆発を起こしたのだ。爆風をもろに浴びていたら危なかったかもしれないが、塹壕に隠れたおかげで無傷だ。
 周辺にいた他の隊員も間際に非難できたのか、すぐに銃を構えていた。Sarahも現代では数少なくなったレーザーライフルを構えて巨大なSuper Mutantの頭部を狙い、引き金を引く。
 だが直撃したライフルのレーザーは、巨大なSuper Mutantに対してほとんど効果を示さなかった。皮膚が厚すぎるのだ。他の隊員は小型の機関銃を持っていたが、その弾丸も巨大なSuper Mutantの皮膚には突き刺さりもしない。

Behemoth………!)

 あれはSuper Mutant BehemothというSuper Mutantの突然変異種だ。写真で見たことはあるが、直接見たのは初めてだ。Super Mutant以上に強力な膂力とスピード、暴力性を兼ね備えた、現在の大陸で最強の生き物。


 首には人間の頭蓋骨が、まるで未開部族のネックレスのようにぶら下がっている。身体には自動車の外装や金網などがまるで防具のように取り付けられており、道具を使う知能があることがわかる。個体数が少ないためどの程度の知能があるかは確認されてはいないものの、おそらく他のSuper Mutantと同様に、人間と同じくらいの知能があると考えて間違いないだろう。
 Super Mutant Behemothを倒す安全かつ確実な方法はひとつしかない。核だ。小型の核を打ち出すヌカ・ランチャーを使えば、Behemothの硬質皮膚も破壊して倒すことができる。Sarahの隊にもヌカ・ランチャーを持たせていた隊員がいたはず。その隊員の姿を探す。

 いた。噴水の横。ランチャーも確認できる。しかし首がない

 ランチャーを携えた隊員の首は、胴体のすぐ傍に転がっていた。彼の傍には塹壕がなかったので、おそらくBehemothの起こした爆発の衝撃で飛んできたバスの破片に首を跳ね飛ばされたのだろう。


「Glade ! ヌカ・ランチャーを拾え!」
 Sarahは近くにいた隊員に指示を出し、ライフルを再度構えなおす。レーザーライフルではBehemothの皮膚は貫けないが、皮膚に覆われていない眼球を狙えば動きを止められるはずだ。

 だがSuper Mutantが人並みの知能を持っているということを忘れていた。BehemothはSarahが眼球を狙っていることに気付くやいなや空いている手で目を覆い、もう片方の手に握られた棍棒を振り下ろしていた。

 Behemothの狙いが甘かったせいか直撃はしなかったものの、風圧で吹き飛ばされた。Power Armorと装備を合わせて90kg近くあるはずのSarahの身体が、軽々と。
 受身を取ろうとするが、それでも勢いは殺せず身体が地面に叩きつけられる。息ができない。
 視線を他の隊員にやる。ヌカ・ランチャーを拾いに行かせたGladeもSarahと同様に吹き飛ばされたのか、うつぶせに倒れていた。気絶しているのか、動かない。他の隊員たちもBehemothの動きをどうにか止めようとしているが、通常の数倍のサイズの巨体はまったく止まらない。

(駄目なのか………!?)

 毎日の訓練が、戦いが、こんな一瞬で終わってしまうのか。
 正義を為せずに終わってしまうのか。
 かつてアメリカという名前だったこの国を守れずに終わってしまうのか。

 視界の端で這うように動くものの姿が見えた。道中で出会って保護をしていた旅人だ。Sarahと一緒に吹き飛ばされたようだが、彼女は装甲服の類を着ていなかったためか、上手く受身を取れたのだろう。彼女はヌカ・ランチャーのほうに進んでいた。Sarahが先ほど出した指示で、ヌカ・ランチャーがBehemothに通用する武器であるということに気付いたらしい。
 彼女がヌカ・ランチャーに辿り着くまでの間に時間稼ぎをしなくては。Sarahは吹き飛ばされた衝撃で飛ばされてしまったレーザーライフルの代わりに、腰のレーザーピストルを抜いて無造作にBehemothを撃つ。僅かでも注意を引ければ良い。
他の隊員を粗方倒し終えたBehemothだったが、頭部に受けたレーザーピストルの熱量に気付いたのか、Sarahに視線を向けた。捕食するつもりなのか、鼻を鳴らしてやって来る。

 やって来い。
 来い
 視界の端でヌカ・ランチャーまで旅人が辿り着くのが見えた。

 撃て!


 Behemothが急に背を向けた。


「逃げろ、Rita!」


 一瞬だった。Sarahの言葉も虚しく、拾ったヌカ・ランチャーを構える暇もなく旅人、Ritaは巨大な手の平に捕まえられた。
 Sarahはレーザーピストルを撃ち続けた。Behemothは左手でRitaを捕まえ、右手で棍棒を握っているために眼球が開いている。今なら当てられる。
 そう思ったが、Behemothは細い目でSarahや他の隊員たちを見ると、首を僅かに傾けて銃撃を目から逸らした。


 このSuper Mutantは、銃の球筋を読んでいる。

 Super Mutantは知能は人並みにあるものの、銃弾をかわすような仕草を見せることはほとんどない。普通の銃ではBehemothではない、通常のSuper Mutantの皮膚でさえ貫通できないからだ。
 だがこのBehemothは眼球に狙いをつけられていることを察知し、回避した。知能が高い。勝てない。不意打ち以外では勝てなかったのだ。
 Behemothが右手を振る。再度吹き飛ばされる。今度は起き上がれそうにない。全身が痛い。目に液体がかかる。血だ。ヘルメットでよくわからないが、出血した。重症かどうかはわからないが、このままではどうせBehemothに捕食されて死ぬ。

 Sarahはどうにか眼球だけ動かしてBehemothを見た。怪物は動かなくなったSarahたちに興味を失ったのか、手の中で動くRitaを見ていた。その表情はどうやって彼女を食べようかと悩んでいるかのようだった。
 食べ方が決まったのか、Behemothが巨大な顎を開く。
 逃げろ、といまさら言っても無駄だった。無駄だ。聖戦を繰り広げるラジオ局、Galaxy News Radioという最後の剣を守る盾は折れた。これで終わってしまう。正義は。

 視界が青く輝いた。

 地下鉄のドームの上に、謎のスーツを着た人物が立っていた。


 その人物は真っ黒のスーツを全身に纏っていた。右腕を覆う巨大な手甲と腰に差したナイフ、首や腰にはコードのようなものが絡んでいる。そんな姿の奇妙な人物がBehemothを見下ろして腕を組んでいた。

 その姿を見た瞬間、きっと誰もが同じように考えたと思う。
「やっとヒーローが来てくれた」
 その姿はまるで、正義に見えた。戦前に描かれていたコミックに登場する、影を抱えながらも正義のために戦う、ダークヒーローに。

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