かくもあらねば/07/03


Kutoは土産屋の階段を駆け上る。店の主人であるCliff は既に店仕舞いにしたのか、一階のみやげ物売り場にはいなかった。

「Booneさん!」KutoはBooneに飛びつく。「わたし、怖かったです!」
BooneはKutoを振り払い、ライフルをおろす。ご褒美をくれたって良いのに、いつでもクールだ。Kutoは微笑んだ。
「なぜあれが犯人だとわかった?」
予想通りのBooneの問いかけに、Kutoはその場で一回転ターンして、頬に手を当て、もったいぶった動作の上で答えた。「女の勘です」


Booneがライフルを持ち上げたので、Kutoは慌てて言い直す。
売約証を見つけたんですよ! ほら、これ」

BooneはKutoからLegionの売約証明証を受け取り、暗い中で眺める。それはKutoがモーテルの主人であるJeannieの管理人小屋の金庫から見つけたものだ。彼女はLegionとまた取引するつもりがあったのか、あるいは何かしらの用心のためにかBooneの妻を売り払った領収証を大事に保管しておいたのだ。
もっともKutoがJeannieを怪しんでモーテルの管理人室の金庫を開けた理由は勘によるものなので、Kutoの最初の返答もまったくの冗談というわけでもなかった。

Kutoの説明を聞き、Booneは頷いて領収証を破り捨てた。「なるほど。そうか……、そうか」
「それで……」
「ああ、これですべて終わった
ちょっとはしたないかな、と思いつつKutoは上目遣いにBooneを見つめる。「えっと、ご褒美が欲しいんですが」
「そうだな」
Booneが手を伸ばしてきたので、Kutoは反射的に目を瞑った。しかし彼が握らせてきたのは100Capsの束だった。
「すまんがおれがやれるのはそれくらいだ。おまえには感謝しても仕切れないんだが……。すまない」
100Capsというとたいした金額ではない。Kutoが本気を出せば一晩で稼げる金額の、十分の一にも満たない。しかしKutoが本来欲しかったのは金銭的な褒美ではない。もっと違うものが欲しかった。だがそれを言ってしまうとBooneに嫌われてしまうかもしれないので、Kutoは頷いて100Capsを懐に収めた。彼の心の篭った感謝と謝罪の言葉が聞けただけで十分だと思うことにしよう。

「Booneさん、これからどうするつもりですか?
Jeannieの死体を処理した後、Kutoは改めて尋ねる。Jeannieを殺した後のBooneは、歓喜に打ち震えるというよりはなんだか少し悲しそうだったからだ。達成感の後に訪れる喪失感のせいかもしれない。
「考えていなかったな……。だがここにいつまでもいる気はないし、いられないだろう」
Booneが言っているのは、Jeannie殺害のことがいつかNovac住人に気付かれるかもしれないということだろう。彼女の死体はNovacから少し離れた橋の下に放り捨てた。そちらはLegionの集落であるNelsonの近くなのでLegionに殺されたと思ってくれるだろうが、どんなことから物事は発覚するかどうかはわからないものだ。
「するべきことも、したいこともない。Legionを殺す以外には。言ってみれば……」BooneはKutoから返却されたベレー帽を被り直す。「Kuto、おまえと同じ流れ者だ

Booneが初めて自分の名前を呼んだことに、Kutoはちょっとした感動を覚えた。もちろんこれまで何度もKutoは自分の名前を名乗ったが、彼はいつも無視しているような態度を取っていたため、名前なんて覚えてくれているはずがないと思っていたのだ。

「なるほど、それじゃあ」Kutoは勇気を出して言う。「わたしと一緒に行きませんか?
BooneはKutoから僅かに視線を逸らした。初めて見せた戸惑うような動きだった。彼はやや躊躇いがちに「おまえが厭じゃなければな」と言った。


Kutoは抱きつく。ED-Eがファンファーレを鳴らした。


Black Mountainの騒動でまたコートを駄目にしてしまった。
お気に入りのクッションとか膝掛けとか入っていたのになぁ……」とSumikaは悲しそうだ。
「我慢しろよ」Siは言いながら雑嚢の中を漁る。今はSloanでVegasへ向かうための装備を整えているところで、Raulは買い物に行っているため、2人だけで会話をする余裕がある。
「だって作るのに結構時間かかったのに………」
Sumikaの日用品は彼女サイズのものがなかなかないため、人形用のものを拝借したものなどの一部を除けばほとんどが彼女の手作りだ。
「コート、まだあった?」
「着辛いのが一着だけ」Siは雑嚢の底から一着のコートを取り出す。これは人に貰ったもので、Mojave基地に郵送されてきたものだ。しかし重くて着心地が悪いので、これまで着ていなかった。
「ああ、それ?」Sumikaは笑顔になる。「良かったじゃない。防弾だし……、難燃性らしいから簡単に燃えないだろうし」
「着にくいし、重いんだよな……。おまえだけでも重いっていうのに」
「重くないもん」
「おまえがいるほうの側だけ肩が凝る」
「本当?」Sumikaがちょっと不安そうな表情を見せる。

Siは答えずに新しいコートを身に纏った。重い。まるで自分の立場のように。まさにユニフォームだ。これを着ていると、自分がどこに属している存在なのかということを改めて思い知らされる。重い、がそれだけエネルギーが大きいということだ。扱い辛いが、上手く使えば効果的だということだ。

買い物を終えたRaulが戻ってきて、Sumikaが定位置であるコートの左ポケットに入る。ホルスターの状態を確かめる。


全兵装準備良し。Vegasへ向かってSiたちは出発する。

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