展覧会/『ラストクロニクル』/第7弾フレーバー考察




■肩甲骨は翼のなごり
 ザインのクロノグリフに記載されている一頁、アトランティカという名が《プラトン》の著作で描かれた幻の大陸、アトランティスに起源を持つように、新たなクロノグリフの頁であるレムリアナという名も、かつて存在していたと提唱されたレムリア大陸を祖としている。

 レムリア大陸はワオキツネザル(レムール)の種が海を隔てたアフリカとインド、どちらにも存在していた痕跡があったことから動物学者によって提唱されていたのだが、その原因はかつてそれらの大陸がひとつであり、大陸の移動によって分け隔てられたからであった。
 20世紀のウェーゲナーによる大陸移動説によって、レムリア大陸は地図のみならず学説からも姿を消す。

 だが伝説の天空神セゴナによって作り上げられた世界、レムリアナは幻などではない。5つの大陸(島陸)と多数の群島諸島から構成されたこの世界は、魂の浮力によって重力が大きく低減されている。


7-136C《ヘインドラの浮き島探し》
魂の浮力に満ちたこの世界——機械の翼に、精神の翼……鳥の翼以外にも、空を行く方法は無数にありますわ。

 《ヘインドラの浮き島探し》のフレーバーでは、この魂の浮力によってレムリアナでは空を飛ぶことが非常に容易になっていることが語られている。
 だが魂の浮力の力は無限ではない。女神セゴナの精霊力が弱まるとともに、魂の浮力は減衰していった。それが意味するのは、島陸の下降である。


7-061C《アズルファの浮き島探し》
道士たちの法力は、島すら飛ばぬ空域でさえ彼らのものとする。しかし限りなく蒼き清浄の聖域だけは別だ……触れた瞬間、あらゆる魂が消滅するのだから。

 ゆっくりと下降して、存在しているのかもわからない地表に降りる、などという選択肢は無い。なぜならば、レムリアナの底にはセゴナによる蒼き清浄の聖域が存在しているからだ。
 《アズルファの浮き島探し》で述べられている通り、聖域への接触は消滅を意味する。どうにかして、この火急の事態を受け止めなければならない。


7-015C《ティルダナの浮き島探し》
すべてはティルダナのため! このレムリアナのどこかにあるという精霊力と魂の浮力に満ちた楽園島、必ずや見つけてみせます!

 各国は先を争って、ある物を探し始めた。楽園島とも称される、伝説の浮き島である。

 伝承でしか語られていない楽園島に、何があるのか。
 何処にあるのか。
 そもそもが、真に存在しているのか。
 それらの問いに答える者はいなかったが、レムリアナの人々は信じていた。
 伝説の浮き島には秘宝が隠されており、それを手にしたものがこの世界の覇権を握るのだと。
 溢れんばかりの精霊力が世界を救うのだと。

 こうして伝説の浮き島を巡る天空編の戦いが幕を開ける。


■再編された二番目の羽
 この項では5つの島陸に存在する国々を見ていく。

 まずは白、聖砂の王国ティルダナである。
 ケルト神話の楽園、ティル・ナ・ノーグとトゥアハ・デ・ダナーン神話にその名を由来すると思われるこの国は、《千の剣王 ラハーン》によって治められている。その子である姉弟のうち、《聖夜月の歌姫 エシャローテ》には出自に何某かの秘密があるようだが、《聖砂の祝福》では彼女に関連するような、この国の誕生秘話が語られている。


7-023C《聖砂の祝福》
「かつて、この地では二つの力が争っていた。やがて聖光の女王と砂漠の蛮王が親交を結び、ついに婚姻するに至ったことで、新たに一つの国が生まれ……」
〜「聖砂の歴史書」より〜

 大陸間の移動方法は天使や天馬の翼、魔法力、そして機械と豊富であり、特に機械技術に関しては、魂の浮力が無くなったとしても飛行を続けられるため、覇権を握れる可能性があることが《飛空戦艦 メル・アルタバール》のフレーバーでは示唆されている。


7-030S《飛空戦艦 メル・アルタバール》
「まさに無敵だな……! レムリアナの大気に満ちる、女神の魂の浮力……その影響が消えた暁には、剣と騎士の時代は終わるかもしれぬ。」
~とある天馬騎士の嘆息~

 なお、ティルダナの信仰神はゼルバルというセゴナの第一使徒であり、この名は《ゼルバの砂塵衛士》や《ゼルバの砂神官》の出身地であるゼルバという地名に残されている。


7-013U《ゼルバの砂神官》
これは砂の民の聖地、ゼルバを守るための戦い……決して敗れるわけにはいかないの。さあ大いなる砂神の加護よ、我とともに来たり、我を悪しき刃から守りたまえ!

 次に橙の緋樹の大高地メギオンだが、この国(というより、幾つかの民族が集まった連邦に近いのだが)は、魂の浮力や精霊力の減少とともに、《三本角の暴君》のような暴竜の出現が問題視されている。


7-043S《闘獣王 ガルバ・ベルガ》
「ふざけた話だ、今でも信じられんよ……我が軍が投げつけられたのは、ティルダナ式の大岩どころじゃなく、生きた暴竜だったのだから!」
~聖砂の大戦術家~

 もっとも《闘獣王 ガルバ・ベルガ》の場合だと、その暴竜を逆に兵器として利用しているくらいなので、そう危険な状況というわけでもない。
 空を飛ぶための手段は主に《突撃するグリフォン》のような羽を持つ野生動物である。

 ところで《闘獣王 ガルバ・ベルガ》ではメギオンとティルダナの戦いの風景がフレーバーを通して描かれている。
 アトランティカには友好色の概念があり、隣り合った国同士、たとえばグランドールならガイラントとイースラは友好的な関係にあった。
 もちろん五ヶ国は戦争をしているので、友好的な関係とはいっても戦争をしないわけではない。しかし今回のレムリアナ編でフレーバーにおける数少ない戦闘描写のひとつが白対橙の構図というのは、アトランティカの友好色の関係の転化を匂わせているように感じられる。
 それに関連するように、今回のマルチソウルユニットは、アトランティカでの友好・敵対のどちらでも作られている。

 紫炎の皇国アズルファは帝政であるが、近年皇帝が炎術師スウ・アを皇后に迎えたことで、その暴政ぶりが露になってきている。


7-084R《魂爆弾》
「あら、それはとても美しい光景なのですよ? そう、まるで宝石が砕け散るように……命の輝きが欠片となって飛び散るのですから……!」
〜アズルファの炎皇后 スウ・ア〜

 アズルファでは道士による法術によって空を飛ぶのが主だが、竜の背に乗る竜騎士の存在もある。
 この国に隣接する、五大陸以外の特筆すべき小大陸として、東紅島ヤルハンの存在が挙げられる。


7-079C《ヤルハンの飛び影》
アズルファに寄り添う小大陸、東紅島・ヤルハンには、奇妙な技と独自の刀術を使う者たちが存在する。人々は彼らを、ヤルハンの影と呼んだ。

 アトランティカでいえば蒼眞に相当すると思われるこのヤルハンの住民は奇妙な術を用い、戦争や浮き島探しに貢献している。

 死と眠りの魔王国のレーテという名は、ギリシャ神話に登場するレーテ川に由来すると考えられるのだが、このレーテ川は日本で言えば三途の川に相当するものである。
 それが指し示すように、レーテを統治する慟哭城に住む《慟哭城の黒姫 ベルファーラ》はゾンビであり、ハンドブックでその存在が示唆されている彼女の兄、ビザルもまた不死者であると考えられる。


7-111C《レーテ島の浮き島探し》
慟哭城の主は、浮き島の秘密を知っておられるという。そこはただの力に満ちた楽園などではない、と……だからこそ、我らが先にそこを見つけ出さねばならんのだ。

 基本的に伝説の浮き島の存在は、まさしく伝説であり、存在しているかどうかもわからないことになっているが、少なくともレーテを治める慟哭城の主(これは《慟哭城の黒姫 ベルファーラ》ではない。彼女はあくまで姫であり、主は兄のビザルであると想像できる*1に関していえば、その存在を確信しているばかりか、何がしかの秘密を知っているらしい、ということが《レーテ島の浮き島探し》のフレーバーで語られている。
 アトランティカのバストリアとは異なり、レーテでは精霊力が存在しないという描写が無いわけだが、この慟哭城の主の存在により、やはり黒は他国より特殊な立場にあるといえる。



*1). 第8弾のハンドブックで、《慟哭城の魔王子 ビザル》もまた客分であり、慟哭城の主は別に存在していることが判明している。[2015-06-14追記]



 最後に、霧氷の女王によって絶対王政が敷かれている国、ヘインドラだが、この国の飛行方法は《ヘインドラの浮き島探し》を見る限りでは、機械と魔法を組み合わせたもののようである。
 技術水準はティルダナに次いで高いようであるが、その技術はその移動手段が示すように、純粋な機械というよりは魔法を組み合わせたものである。


7-150U《氷雪の軍船 ヘインデン》
霧氷の女王が、その魔法の軍船に名を与えた。「ヘインデン」とは、ヘインドラの古き時代の呼び名である。

 基本的に厳寒の冬が続くヘインドラであるが、凍えるメルク氷海の中には、《極海の宝声 アイネ》が住むセイレーンの島のように常夏の島も存在する。


7-123S《極海の宝声 アイネ》
冷たい雲と水に覆われたメルク氷海の中には、寒さとは無縁の奇跡の島があるという。それを凍てついた極風や外敵から守るのは、セイレーンたちの歌声だということだ。

 氷海ついでに余談だが、エスキモー神話にセドナという名の女神が登場する。セドナはもとはウミツバメと結婚した人間の女だったが、彼女の夫を裏切った父が夫の復讐を恐れ、海に放り込まれて生贄にされた結果として誕生したものである。

 女はセドナとなった。いまセドナは下界の、石とクジラの骨でできたじぶんの家にすんでいる。目はひとつしかない。歩くことはできず、片脚をおり、他の脚をのばして、いざれるだけである。父親はというと、おなじ家に娘とすんでいるが、テントをかぶって横になっているだけである。犬はその戸口にいる。
宮岡伯人, 『エスキモー 極北の文化誌』, 岩波新書, 1987. p91より

 もし天空神、セゴナという名がセドナに由来するのであれば、セゴナがレムリアナの底に敷いた蒼き清浄の聖域とは、片目と指を失くし、動けなくなった彼女が坐す冷たく凍った海の底を示すのかもしれない。


■氷と炎の歌
 最後にノウゴロスの境界島について述べる。
 ノウゴロスの名は《火焔を統べるもの ゼ・オム》と《火葬する屍鬼》のフレーバーの中で登場する。


7-153C《火葬する屍鬼》
ノウゴロスの境界島に住む屍鬼は、新たな仲間を選別するとき、不適格者の屍は焼き捨てる慣習を持つ。

 名がすなわちその性質を示すのであれば、境界島(あるいは島々)が5ヶ国の中間地点にあるのは間違いない。ティルダナを北とすると、ノウゴロスの位置は五大国の中央もしくは中央からやや南西寄りといったところだろう。

 ノウゴロス(そしてアズルファの一地域)にはとある精霊、あるいは神の一種である存在が祀られている。
 その名を、《火焔を統べるもの ゼ・オム》。
 アトランティカに出現した《滅史の災魂 ゴズ・オム》と同じく「オム」という名を持つこの精霊、あるいは神が如何なるものなのかは現時点では不鮮明だ。


7-157R《火焔を統べるもの ゼ・オム》
ノウゴロスに住む精霊たちの王は、不思議な力を持つ古き一族の末裔だ。彼らの先祖は遥か昔、とある別天地からレムリアナにやってきたのだともいう。

 しかし《火焔を統べるもの ゼ・オム》のフレーバーの中では、《滅史の災魂 ゴズ・オム》と同様にその出自が異世界であることが示唆されている。
 《火焔を統べるもの ゼ・オム》は炎と氷が合わさった奇妙な姿であるが、これはまさしく冒頭で述べた大陸移動説以前の姿、ヘインドラとアズルファ(インドとアフリカ)が一であったことに関連しているようである(この符号は、ヘインドラとアズルファという名がインドとアフリカにも由来しているということを示すのかもしれない)。

 こちらの世界では、6つの大陸はもとはひとつであり、そのひとつであった大陸は超大陸パンゲアと呼ばれる。大陸移動説とパンゲアの発見(あるいは再認)は、ウェーゲナーが地図を眺めていたときのアフリカと南アメリカの陸地線の奇妙な一致から齎されたといわれている。
 レムリアナの楽園島探しも、あるいはそうした柔らかい見方が必要なのかもしれない。


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2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

うーむ、面白い考察ですね。
プレイだけでなく、ラスクロの世界観を楽しむ役に立ちました!

ブリキの さんのコメント...

コメントありがとうございます。
今回は書くことがあまり無かったため名前の由来などに言及しましたが、「*書き手の想像です」が大量に付きますのでご了承ください。
ただレムリアナという名、明らかにギアナ高地なメギオン、大陸移動を匂わせる《氷炎を総べしもの ゼ・オム》の存在などから、ヘインドラに現れた《ヴァスコ・ダ・ガマ》などから、アズルファ=アフリカ、ヘインドラ=インド(名前だけ)起源説はわりと自信がある説だったりします。

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